回顧
つまらないディレッタントなので、今年読んだ本のベストテンなどを選出してみる。今年出版されたものとそうでないものに分けてみたが、あまり深い理由はない。
- フィリップ・ゴーレイヴィッチ/柳下毅一郎・訳『ジェノサイドの丘』(WAVE出版)
- 東浩紀/大澤真幸『自由を考える』(NHK出版)
- 京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』(講談社ノベルス)
- 内田樹『映画の構造分析』(晶文社)
- 草野厚『癒しの楽器 パイプオルガンと政治』(文春新書)
- Mike Gancarz/芳尾桂・監訳『UNIXという考え方』(オーム社)
- 沢木耕太郎『テロルの決算』(文春文庫)
- 池内恵『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書)
- 兼常清佐『音楽と生活』(岩波文庫)
- 山田正紀『顔のない神々』(角川文庫)
世間で評判になったわりには、オレの周辺では読んでいるひとがいなかったのが『ジェノサイドの丘』。訳者の名前に惹かれて、ふだんはこの手のノンフィクションを読まないひとでも興味を持つかと思ったのだが、上下巻で計3,200円という分量は衝動買いするにはハードルが高すぎたか。でもこれは「ふだんはこの手のノンフィクションを読まないひと」(オレだってそうだ)にこそ読まれるべき名著。『映画の構造分析』は『寝ながら学べる構造主義』と並んで、活字になった内田さんのテクストのなかではいちばんのお勧め。しかしここで『期間限定の思想』のレビューを書いている「薫中納言」なる人物の正体が、あのひとだったとは(今日、ウェブ上の某所で知った)。そうと知った上で読み返すと、思わず微苦笑してしまう。
『UNIXという考え方』は義務的に読んだわりには、強烈なインパクトを受けた1冊。しかしUNIX/Linuxに対するオレの理解が不充分であったため、この本から得られた知見を自著のなかで十全に活かしきることができなかったのが、今年最大の痛恨事。来年はリベンジしますぞ。『音楽と生活』はじつはまだ全体の3分の1しか読んでいないのだが、とにかく痛快きわまりない本だったので、あえて挙げる。いまだに「まわりくどい文章をもてあそんで何も言わないための『文学』にふけ」(高橋悠治)ることが音楽批評だと思っている連中は、クラシック、ポピュラーを問わず、これを読んで筆を折るように。
それにしてもこのセレクトの俗っぽさと生真面目さは、「そろそろエンターテインメント小説以外の本も読まなきゃなあ」と思い立った高校生の書棚を覗いているようで気恥ずかしい。