『中野重治詩集』[amazon]

これは最初のページからきちんと読む。「清冽」や「凛」という言葉がここまで似合う日本語に触れたことは、久しくなかったようにも思う。ゆっくりと噛み締めながら読んでいきたい。


ここは西洋だ

イヌが英語をつかう



ここは礼儀ただしい西洋だ

イヌがおれをロシヤ・オペラに招待する



ここは西洋だ 西洋の勧工場だ

キモノとコツトーの棚ざらしの日本市場だ



そしてここは監獄だ

番人が鍵をじやらつかす



ここは陰気な湿つぽい監獄だ

囚人も番人も人と言葉をかわさない



そして囚人は番号で呼ばれる

そして入口出口に番人が立つている



それからここは安酒場だ

デブ助が酔つぱらつている



それからここは安淫売屋だ

女が裸で歩く



それからここは穴だ

黒くて臭い
なおこの詩は、「帝国ホテル」と題されている。