1950

サンセット大通り」(ビリー・ワイルダー、1950年)[amazon]

うわ、すごい。ここまでイロニカルかつ洗練された「映画についての映画」が、20世紀中葉にすでに作られていたとは。バスター・キートンをはじめ、当時の有名な映画人が本人役で出演していたり、作中で落魄した元映画監督を演じている人物が本当に落魄した元映画監督だったり(これはややネタバレ)と、虚実皮膜な物語。まあ、最初からそれが狙いだったようだが。もちろん、そういう裏話を知らなくても充分に面白い(オレにしたところで、上のような情報は観終わってからウェブで検索して仕入れたものだ)。こういうのを観てしまうと、いまどきの「メタな」物語が急に安っぽく思えてくるよ。


「醜聞」(黒澤明、1950年)[amazon]

これもいい。大仰な科白回しや「正義は勝つ」式のストーリー展開にあざとさを感じつつも、うっかり泣いてしまった。「サンセット大通り」が「時代に取り残された人間が、メディアに必死に取りすがろうとする」話なら、こっちは「時代の先端を行っている人間が、メディアを必死で振り払おうとする」話。まったくの偶然だけど、どちらの映画でも「蛍の光」が効果的なBGMとして使われている。

ともあれこの映画、とにかく三船敏郎が素晴らしい。モダンでクールで美男子でそのくせ熱血漢のこの男に、惚れないわけにはいかないだろう。それから法廷シーンの緊迫感もいい。法廷シーンが魅力的な日本映画って、ほかに何かあるだろうか。大岡昇平原作の「事件」[amazon]はどうなんだろう。原作は法廷ミステリの紛うかたなき傑作なのだが。