ジャズ化

Spooky Actions Music of Anton Webern

Spooky Actions Music of Anton Webern

iTMSをうろうろしていて、偶然見つけたCD。Spooky Actions(DJ Spookyとは特に関係ないらしい)に関しては日本語で読める情報がほとんどないのだが、現地では「ジャズ版クロノス・カルテット」と評価されているようだ。このCDはタイトルの通り、ウェーベルン室内楽をジャズ化したもの。

ところで殊能将之は「ル・マルトー・サン・メートル」について、次のように語っている。

 ピエール・ブーレーズの代表作「ル・マルトー・サン・メートル」はトータル・セリエリズムの代表作でもある。つまり、ひとつのセリー(音列)に基づいて、すべてが作曲されているわけで、これほどシステマティックな音楽はないはずだ。

 ところが、作曲家近藤譲はどこかでこんな発言をしている(記憶で書いているので大意)。

「『ル・マルトー・サン・メートル』の何がすごいかというと、トータル・セリエリズムによって厳密に作曲されているはずなのに、実際に聴くとアモルフ(不定形)に聞こえることだ」

 確かにそのとおりで、「ル・マルトー・サン・メートル」はまるで演奏者が自由に即興演奏をしているかのように聞こえる。

a day in the life of mercy snow
厳密な方法論に則っているのに、フリー・インプロビゼーションのように聴こえるのは、ブーレーズの精神的お師匠さんであるウェーベルンにも当て嵌まる。それこそブーレーズあたりが監修している「正しい」ウェーベルン全集と聴き比べたわけではないが、ドラムスが加わっていることを除けば、Spooky Actionsの演奏は譜面に忠実なのではないだろうか。こういう音楽を下手に「ジャズ風」にアレンジすると、単に安っぽくなってしまう可能性が高いが、Spooky Actionsはそれをうまく回避しているからだ。だからこそ「ジャズ風」ではなく、「ジャズ化」と形容したのだが。

少し話はずれるが、クラシックや現代音楽に対する苦手意識は、音色レベルで克服されるような気がする。たとえば「ル・マルトー・サン・メートル」をちょっと先鋭的なポップス好きに聴かせると、「何だかよく判んないけど、面白い曲じゃん」と言われることが少なくない。それはこの曲が「いかにもクラシックらしい」楽器をほとんど使っていないからではないか。冨田勲が評判になったのも、同じ理由だろう。Spooky ActionsのこのCDも、現代音楽に対する偏見を取り除く1枚として機能するかもしれない。

ジャズジャズしい

My Favorite Things

My Favorite Things

しかしオレはジャズの世界で「歴史的名盤」や「衝撃的な問題作」と言われている音源を聴いても、まるで歴史的だとも衝撃的だとも思わないのであった。たとえコルトレーンやマイルスであっても、「気持ちがいいBGM」にしか聴こえない。それはオレがジャズに無知すぎるからなのか。それともジャズの世界で一世を風靡した手法が、いまではコマーシャル音楽や映画音楽で当たり前のように使われているからなのか。まあ、ジャズ風の「My Favorite Things」が陳腐に聴こえてしまう責任の一端か二端か三端は、JR東海のCMにあるわけだが。