固有名詞の発音なんぞはどうでもいい

以前、「ロラン・バルトRoland Barthes)は本当はロラン・バルトゥスと、最後の子音まで発音するのが正しい」と『現代思想』か何かで読んだことがある。たしかバルトは南仏出身で、南仏系の固有名詞は最後の子音まで発音するケースが多いはずだ*1。それにむかしラジオのフランス語講座で、フランス語ネイティヴの女性が、「ジュール・ミシュレについてなら、バルトゥスという現代のエクリヴァンが優れた本を書いています」と語ったのを聞いたことがある。
これが気になってフランス在住の知人に問い合わせたところ、「フランス人は固有名詞の発音にはあまりこだわらない」という返答があった。要するにバルトだろうがバルトゥスだろうがどちらでもかまわないし(実際、「バルト」でちゃんと通じたそうだ)、おそらくはストラスブール(Strasbourg)をシュトラスブルクとドイツ語風に発音しても、通じるし咎められることもないだろうとの由。へえ、そんなものなのか。
そんな彼に言わせれば、日本人が「固有名詞の正しい発音」にこだわりすぎるのが、少し異様に感じられるらしい。たとえば「『ワーグナー』なんて作曲家はいない。彼の名は『ヴァーグナー』だ!」と、意地になって「ヴァーグナー」と表記するクラシック音楽マニアは少なくない。そのくせ「毛沢東」は平然と「もうたくとう」と発音するのに。これはいったい何なのか。なまじ漢字という共通のインターフェイスがあるので、うっかり日本風に発音してしまうのか。韓国人はきちんと正しい発音で報道するが、あれは韓国側からの要請があったからだと記憶する。
それではなぜ西洋人の固有名詞の発音に関しては、「正しさ」にこだわるのか。長らく続いた西洋崇拝のせいか。いや、それはあまりにも単純すぎるか。
というわけで「大佛次郎」を「だいぶつ・じろう」、「折口信夫」を「おりぐち・のぶお」と発音する御仁がいても、笑って見逃してやろうではないか、あっははは(結論になっていない上に、話がずれている)。

*1:ピエール・ブーレーズPierre Boulez)も南仏出身だが、日本に紹介された当初は「ブーレ」と表記されることが多かったらしい。