フケ談

雲脂(フケ)は外部より飛来し、頭部に付着した埃ではない。用済みになって角質化した皮膚の遺骸であり、それゆえに外出せずにおとなしく生活していても増えるのは防げない。そしていま、オレの皮膚の調子は非常に悪い。特に顔はいわゆる「粉を吹いたような」状態になっている。鏡で確認はできないものの、顔と地続きになっている頭皮の被害も甚大であることが予想される。その証拠に入浴して洗髪してから2時間しか経っていないのに、前髪をぱらぱらと掻くだけで粉雪のように雲脂が舞い落ちる。医師から処方された雲脂防止用のシャンプーを使っているのにこの有様である。ここまで来るとマゾヒスティックな快感に襲われて、無理に掻きむしってパソコンの黒いキーボードや紺のパジャマが白く染め上げられていくのを楽しんだりもするのだが、こんなことを繰り返していると頭皮にさらなる負担がかかるのは確実であり、敵に送った塩の残りを自分の傷口に塗り込むがごとき行為である。オレは何年かに1回の割合でこうした雲脂の大量発生に悩まされるのだが、そのたびにスキンヘッドになりたくなる。スキンヘッドになったところで雲脂は減らないが、いつでもどこでも気軽に頭が洗える環境が手に入るのは魅力的である。しかし面長で目つきが悪くて顎が細いオレがスキンヘッドになると、できそこないの三島由紀夫というか、どことなくたがの外れた憂国の士になるのは必定であって、これもまたためらわれる。
まったく世に益するところのない文章だが、せめてもの気休めのために書き散らした。未経験者には判らないだろうが、雲脂の大量発生は歯の病気や生殖器の病気と同類項の陰鬱なのである(いや、生殖器の病気の経験はないが)。「歯の病気や生殖器の病気と同類項の陰鬱」の出典は自分で調べたまえ。助詞に手を加えているので、丸ごとコピー・アンド・ペーストしても該当のテクストには行き着かないだろうが。