川原泉と同性愛

「真面目な人には裏がある」が単行本になったのがきっかけで、川原泉作品の同性愛描写がまたもや問題になっているようだが、これは問題にするほうがおかしいのではないか。ふだんはあまり漫画を読まないひとが、川原泉というスキの多い作家をたまたま見つけて血祭りに上げている、といった感さえある。
そう、たしかに彼女の作品は「スキが多い」。しかし「スキ」が目立つのは、それなりにきちんとした物語が描けるからであって、同性愛者への偏見にまみれた「お話にならない」作品しか描けないのであれば、もとより誰も問題にはするまい。反動的な言動で知られている人物が中国や韓国にどれだけひどい悪口雑言を浴びせても、優雅に無視するのが作法となっているのと同じように。ギュンター・グラスがSSに所属していたのがスキャンダルになったのは、グラスがまさかそんな人物だとは思えなかったからで、川原泉にも同じ構造が当てはまるのではないか。期待値が高いからこそ、ちょっとした「スキ」が過剰に批判されるのだ。
われわれは口先では「性的マイノリティーを差別するのはよくない」といくらでも言える。しかし実際に自分の肉親や友人が性的マイノリティーであると知ったら、「引いて」しまうのではないか(そもそも「引いて」しまうような存在だからこそ、「マイノリティー」と呼ばれているのだ)。「真面目な人には裏がある」は「同性愛者に偏見を持ってしまう市井のひとびと」を「偏見なく」描こうとしている良心的な作品だとオレは思う。
ううむ、最初に書こうと思っていたこととずれてしまったな。